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歴史を深掘り!香り好きのアラブで好まれた香り【動物編】

21/07/2020

アロマの歴史を深掘り!香り好きのアラブで好まれた香り【動物由来】

 

「アラジンと魔法のランプ」は、「アラビアン・ナイト(千夜一夜物語)」として最も有名な物語のひとつです。

 

 

アロマの歴史を勉強する中で「シベット」とか「竜涎香」が出てきたけれど、いったいどんなものなんでしょう?

 

ちょうどよい機会だから、動物由来の香料について簡単に説明していくわね。

 

 

こんな方におすすめ

  • 動物由来の香料にはどんなものがあるの?
  • ジャコウジカにジャコウネコ?ムスク(麝香)について教えて
  • それぞれいったいどんな香りを持っているの?
  • ムスクにはフェロモン効果がある?
  • クレオパトラが好んだシベットってなに?

 

目次よりお好きな項目からご覧いただくこともできます。

 

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動物由来の香料は4種類のみ

 

動物由来の香料は4種類しかありません。

 

  • 竜涎香/アンバーグリス(マッコウクジラ)
  • 麝香/ムスク(ジャコウジカ)
  • 海狸香/カストリウム(ビーバー)
  • シベット(ジャコウネコ)

 

です。

では、以下よりそれぞれの香料について詳しくをみていきましょう。

 

 

海岸で見つかるお宝?竜涎香(アンバーグリス)

 

地球上最大の肉食獣マッコウクジラ(左下)。特徴は大きな頭で9㎏にもなる大きな脳を持っています。

 

マッコウクジラからは竜涎香りゅうぜんこう(アンバーグリス)が取れます。

 

最初は海岸で見つかったため、長い間どのような物質なのか謎に包まれたままでした。

 

現在は、マッコウクジラの腸内で作られる結石であり、消化できなかった餌が結石化したものと考えられています。

 

この結石は、クジラの体内から排出され、長い時間海を漂いろう状の塊になります。

 

そして、その塊の中に含まれるアンブレインという物質が海上で酸化分解され、香りを持つようです。

 

そもそも、なぜその結石ができるのかは現在でもわかっていません。

時折ダイオウイカのくちばしが混じっていることから、深海に潜れるマッコウクジラが、深海だけにいるダイオウイカを食べた後に起こした消化不良の結石ではないかとも言われています。

 

発見される頻度が非常に少ないことから、昔から非常に高価な香料として珍重されてきました。

 

クジラの体内からも発見することはできましたが、商業捕鯨が禁止されたため現在では昔のように偶然の発見でしか入手できません。

 

海岸で偶然見つけた軽い石が竜涎香で、思わぬ収入に恵まれた人の話が今でも時々ニュースになります。

 

日本は過去には世界で有数の竜涎香の産地であったとか。

マッコウクジラの数が回復してきていますし、竜涎香を見つけられるチャンスもあるかもしれません。

 

 

竜涎香はエチルアルコールで抽出して用います。

 

竜涎香はそれ自身が良い香りを持つだけでなく、保留性も持つことから過去には高級な香水に用いられました。

 

今日、アンバーグリスは調香には使われていません。

 

合成香料、あるいは、合成香料や植物素材を使ったアンバーグリス風の香料で代用されています。

 

 

参考

アンブロキシド ambroxide

アンバーグリスの主成分の1つ。

植物由来の香りの分子とは大きく特徴が異なる分子構造をもっています。

香りは強く、まさにアンバー様。

甘みがあり、ウッディでラブダナムの香りや松、そしてシダのような香りも感じます。

 

 

 

 

関連

竜涎香発見のきっかけはシストローズ?

竜涎香はアラブが発見したと考えられています。

アラブでは、牧羊の際、羊がつけてくる野草のラブダナム(別名シストローズ、ロックローズなど)の香りに古代からなじんでいました。

イスラム教が興り、海上の道が拓かれ海上の商売に出る頻度が高くなったころ。

海岸で拾った「黒い塊」がアブダナムに似た香りをもっていたため、使用するようになったのが竜涎香です。

以来、それを「アンバー(アラビア語で琥珀)」と呼んで膏薬にも利用していました。

※「グリス」は黒いという意味でのちにフランス人によって加えられたもの。

中国では竜涎香と呼ばれましたが、竜がそもそも架空の動物。

アンバーが何であるか、どうしてできるかについては誰にもわからず、多くの謎めいた憶説が生まれました。

 

ラブダナム(精油)は甘く強い香りをもつベースノートです。

 

 

 

フェロモン効果があるって本当?麝香(ムスク)

 

ジャコウは動物的な雰囲気を持つ温かみと重みのある大人っぽい香りです。

 

雄のジャコウジカ(ヒマラヤ山系のMoschus mosschiferus 牙がある)のお臍の下、睾丸近くに丸い嚢の香嚢こうのう(ジャコウ腺)と呼ばれる分泌腺があります。

 

そこを切り取って乾燥させ、その中の分泌物をエチルアルコールで抽出したものがジャコウ(英語名でムスク/musk)です。

 

1頭から30gしか取れない大変貴重なものです。

 

 

 

採取されるムスクの量は世界で中国が7割を占め、ムスクの国際市場価格は1㎏あたり約580万円で取引されていたようです。

※香料産業新聞掲載(1997年7月15日)参照

 

元々数の少なかったジャコウジカは乱獲により、絶滅の危機に・・・。

 

そのため、現在天然のジャコウジカ由来のジャコウを入手することは困難です。

 

※中国のトンキンから輸出されてたムスクは最上級品とされ「トンキンムスク」と呼ばれましたが、今では絶滅危惧種に指定されています。

 

ジャコウは動物的な雰囲気を持つ温かみと重みのある大人っぽい香りです。

 

「甘く粉っぽい」と表現されることがあります。

 

ジャコウは保香剤としても優れており、高級な香水に使われました。

 

世界一売れた香水と言われている「CHANEL(シャネル) No.5」には、ムスクケトンというムスクの香り(合成香料)が入っています。

ラストに香る重く甘い香りにムスクを感じることができます。

なお、この香水には後ほど紹介するシベットも使われています。

 

 

 

 

参考

ムスコン muscone

ジャコウジカ由来の天然のムスク(ジャコウ)の主成分。

シベトンと分子全体の特徴は似ており、これが両者共通の香りの特徴につながっているようです。

非常に強いムスクの香りを持っています。

0.1%以下の溶液にすることでよい香りになりますが、それ以上濃度が高いとひどい悪臭に変わります。

 

 

麝香と竜涎香はいずれもアラブで好まれた香りです。

豪奢な金銀財宝が有り余る中、この二つの香りを焚きしめた高価な絹の布はさらに上をいく高価なものだったとか。

興味深いのは、千夜一夜物語の中で王子の表現には麝香、王女の表現には竜涎香を使った箇所があること。

精油のブレンドをそのようなイメージから考えてみるのも楽しいですね。

 

ムスクは最初にインド人やアラブが目をつけ、コーランにも取り入れられました。

 

 

関連

ムスクにはフェロモン効果がある?

ムスクといえば「色っぽい」、「官能的」といったフェロモン効果のイメージがあるかと思います。

結論からいうと、人間にフェロモン効果があるかどうかは未だ立証されていません。

ただ、ムスクは年に一度の発情期に30gほどの最大量に達することから、鹿同士においてはフェロモン効果があるのではないかと考えられています。

なお、ある研究では「ムスクには男性には覚醒効果、女性には鎮静効果を与える」という結果が得られているそう。

楊貴妃、ナポレオン妃ジョセフィーヌらはムスクを好んだといわれています。

 

18世紀、フランスではムスクの濃厚な香りが流行。

そんな中、ナポレオンはドイツのケルンを占領した際「ケルンの水」に出会い、その爽やかな香りにすっかり夢中に・・・。

妻であるジョセフィーヌにプレゼントし、彼の前では爽やかなケルンの水とフローラルウォーターの香りしかつけるのを許さなかったのだとか。

 

フェロモン効果があるのかないのか・・・

というか、男女間の好みの違いって難しい!

 

「ケルンの水」については、下記のページで紹介しています。

 

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海狸香(カストリウム)って実は身近な香り…?

 

ビーバーは強い歯と強力なアゴをもち、木をかじり倒しダムをつくることもできます。

 

ビーバーは雌雄ともに、肛門近くに香嚢こうのうを持っていて、そこに強い臭気をもつ黄褐色のクリーム状の分泌物があります。

 

これを乾燥して粉末にしたものがビーバー由来の香りで海狸香かいりこう(カストリウム)と呼ばれます。

 

ビーバーはこの匂いを縄張りを示すためのマーキングに使います。

 

皮革のような香りですが、これをアルコールで薄めると一変してジャコウのようなフルーティーな香りになります。

 

ラズベリーやストロベリーの香りを引き立てるため、バニラアイスクリームなどの食品にも添加されているのだとか。

 

ビーバーも一時絶滅が危惧され、今ではほとんどのカストリウムは純粋に化学合成されたもので代替されています。

 

参考

カストリウムに含まれる芳香分子

含まれる分子は20種類以上報告されていますが、どの分子がカストリウムに特異な芳香分子であるかは現在でも明らかになっていません。

なお、カストリウムの成分分子は他の動物性の香りの分子とは大きく異なります。

動物由来でありながら食べた植物由来の成分が大半のようです。

 

 

最初はムスクと呼ばれていたシベット

 

クレオパトラはバラとともにシベットの香りも好んで使っていたそう。

 

最後がジャコウネコ(霊猫)から得られるシベットです。

 

一般の猫同様夜行性ですが、ネコ科ではなくジャコウネコ科という別の科に属します。

 

体長(尾を除いて)43~71cm、体重1.4~4.5㎏程度で、鼻はカワウソやマングースのように伸びてとがっています。

 

 

 

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ジャコウネコの糞は世界一? ジャコウネコはハクビシンに似ていて、アフリカ大陸、ユーラシア大陸、東南アジアと幅広く生息する動物です。 ジャコウネコは小動物や果実も食べるのですが、コーヒーの実も大好物なのです。しかし、実は消化できるのですが、種は消化できずに糞として出てきます。 しかし、ジャコウネコの腸の消化酵素により、コーヒーに含まれるアミノ酸が分解されます。それにより、独特の香りをさせることができます。また、体内で12時間以上も自然発酵されている状態になるため、コーヒーに深みが出るとも言われています。飲んだことないからわからないですが… ちなみに、2時間以内に出たフレッシュな糞が集められた後は、しっかりと洗浄されるので安心してください! ちなみに2時間以内に集めないとコーヒー豆がすぐに劣化してしまうみたいです。かなり、レアですね〜 このジャコウネコの糞から採取された珈琲豆を使ってできたコーヒーの銘柄を「コピ•ルアック」といいます。コピはインドネシア語でコーヒー、ルアックはジャコウネコを表しています。ちなみにこの銘柄1杯8000円以上もする世界一高級なコーヒーと云われています。 個人的には人生に1度は飲んでみたいな〜 #環境 #生物多様性 #環境問題 #動物園 #野生 #自然 #地球温暖化 #プラスチック問題 #生き物大好き #食物連鎖 #動物好きな人と繋がりたい #ジャコウネコ #自然の学校 #絶滅危惧種 #笹田拓人 #wildanimals #globalwarming #environment #biodiversity #animals #nature #savetheearth #plastic #civet

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鹿からムスクが取れることを知ったアラブは猫からも似た匂いの香気成分を取り、これもまたムスクと呼びました。

 

しかし、1915年にジャコウネコの香りの本体はシベトンであることが判明し、以降はシベットと呼んで区別するようになりました。

 

ジャコウネコの生殖器近くにある香嚢(会陰腺)からは黄白色のペースト状の分泌液が出ます。

 

香料として利用する場合には、これをエチルアルコールに溶かしてチンキとして使います。

 

濃度が高いと刺激的な悪臭になりますが、薄めると良い香りに変化します。

 

シベットもまた保留剤としての働きがあり、また特に花の香りに輝きと温かさを付加し、香りをより引き立てる効果があります

 

そのため、香水に少量添加されていることが多いです。

 

シベットも現在は動物愛護の観点から、合成香料で代用されています。

 

参考

スカトール skatole

この分子はシベット(ジャコウネコ)に含まれる香り分子。

実はお茶の中にもごく微量入っておりその風味に関わっています。

skatoleの名前はギリシャ語で「糞」を意味するskatoからきています。

哺乳類の糞のような極めて強いにおいを持ちますが、希釈するとフローラルな香りに変身します。

シベトン civetone

シベトンはシベットに含まれる主成分。

濃度が高いと強力な動物の悪臭ですが、希釈すると(1%以下)いわゆるジャコウの香りになります。

透明感があり、甘く乾いた雰囲気があります。

 

シベトン(シベット/ジャコウネコ)とムスコン(ムスク/ジャコウジカ)の分子全体の特徴は似ています。

そのため、似たような香りの特徴となっていると考えられます。

 

 

天然香料を参考に生み出される合成香料

 

香料を作る技術は日々進化しています。

 

動物由来の香料は人々を魅了し、結果、乱獲により動物たちは絶滅の危機にさらされました。

 

そのため、現在は合成香料で代用されています。

 

天然香料に対して、科学的に合成して作るものを合成香料と言います。

 

天然香料を抽出して成分を分析、芳香成分を見つけて、人工的に合成する。

 

そのようにして、新しい香りを調合する技術は発展を続けています。

 

 

終わりに 古代から人々を魅了する香り

 

古代から人を魅了し続けている「香り」

 

今回は、アロマテラピーではあまり触れられることのない動物由来の香料についてご紹介してきました。

 

  • 竜涎香/アンバーグリス(マッコウクジラ)
  • 麝香/ムスク(ジャコウジカ)
  • 海狸香/カストリウム(ビーバー)
  • シベット(ジャコウネコ)

 

現在では、動物保護の観点から合成香料で代用されています。

 

アロマテラピーの歴史を深めるきっかけとなれば幸いです。

 

 

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クレオパトラが好んだ香りといえばローズが挙げられます。

 

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また、ムスクの濃く甘い香りが流行した中世フランスで、全く異なるテイストの香りがドイツからもたらされました。

 

それは、世界で最初のオーデコロンと言われる「ケルンの水」。

 

下記の精油で近い香りを再現できます。

 

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精油は体と心に働きかける力をもっています。

しかしながら、「医薬品」、「医薬部外品」、「化粧品」ではありません。

香りを楽しみながら、健康維持・増進、美容を目的にアロマテラピーを取り入れてみてください。

心身の状態が悪い時には速やかに医師の診察を受けるようにしましょう。

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